STATEMENT
私には「劇映画を撮る」という昔からの夢があります(アーティストですが映画監督を名乗っているのもそのためです)。ただし監督としての正式なトレーニングを受けてこなかったため、作り方がよくわからないまま見様見真似で制作を続けてきました。そんな至らない自分を支えてくれているのが、これまで他分野で培ってきた経験です。彫刻やメディア・アートで学んだこと、通訳や翻訳業での体験、演劇の現場で得た知見など。これらの技術を組み合わせた混合体が私なりの「映画」として、映画館ではない場所に立ち現れます。しかし模倣から始まっているため、まだまだオリジナルとは言い難く、ただ単に「映画らしきもの」になっていることへの自覚もあります。いわば、劣化コピーなのです。
理想的な自分とは程遠い、ニセモノな私は、やはりどこか不完全な物たちに魅了されてしまいます。例えば、ニューヨークで見かける自由の女神を象ったお土産品。サイズや色が異なったバージョンが幾つも店先に陳列されていますが、それらの顔を見比べると、同じモチーフでありながらそれぞれ表情に違いがあることに気づきます(そしてアメリカ土産であるにもかかわらず「MADE IN CHINA」の表記。この原型を作った職人たちの中で、実際に自由の女神像を目にした人は果たしてどれくらいいるのでしょうか)。この造形的なズレを味わいとする感覚は、少々飛躍しますがジェームズ・ボンドやブルース・ウェインを演じた歴代の役者たちによる、それぞれの007やバットマンの違いを楽しむことと近い気がするのです(奇しくも、英語圏では美術用語の「鋳造」と、演劇·映画における「配役」はどちらも「キャスティング(casting)」という言葉が与えられているのは実に合点がいきます)。
型に流し込まれたとしても、思わずそこから溢れ出てしまうような、どちらかというと本質的ではない、余計な部分に強い関心があります。なぜなら、そういった余分な差異にこそ、唯一無二の個性が潜んでいると今回の制作過程で確信が持てたからです。不完全な私は、完全コピーを目指すのではなく、型に嵌りきらない部分にこそ光を当て、祝福したい。それは同時に、社会の中で課せられた役割を演じつつ、ほんの少しだけ自分自身を解き放ってみる行為でもあります。今回の主演であり、それを実践し続けている私のヒーロー、最高にアツい世界一のバンドマンたちにこのコミッション・プロジェクトを捧げたいと思います。
ABOUT THE WORK
「コピーバンド」という言葉をご存知でしょうか。有名な曲を複製して演奏するバンドのことです。この動きは1950年代以降から世界的に広まったとされていて、バンド用に楽譜が市販されて流通する前の時代から盛んだったと言われています。ちなみに「コピーバンド」という言葉は和製英語であり、英語圏では「cover band」や「tribute band」といった呼び方が一般的です。大まかに違いを説明すると、原曲に対し独自のアレンジを加えて演奏するのが「カバー」、「トリビュート」は原曲通りの演奏を大前提とした上で、さらに衣装を揃えたり対象となるミュージシャンに成り切ることをも含みます。
本作《仮面の正体(海賊盤)》は、京都府南丹市八木町を拠点とするバンド・WISSの肖像画です。彼らは、アメリカのハードロックバンド・KISSのコピーバンドとして15年ほど活動してきました。2年前にあるご縁で彼らと出会った私は、以降WISSの追っかけをしています。原曲や世界観の再現において、本家KISSへの多大なる愛と敬意の表れはトリビュートそのものといえるでしょう。しかし、本家と異なりWISSの場合は5人編成であったり、メイクと楽器もメンバー間でシャッフルしていたりと、彼らなりの系譜があるのも見どころです。
展示形態は、2画面構成の映像インスタレーションになります。表側の巨大LEDヴィジョンに彼らのライブの様子がサイレントで輝かしく映し出され、裏側にはメンバーへのインタビューや普段の仕事、メイク中の記録映像などが流れています。舞台と楽屋、演奏と日常、メイクと素顔、いわばハレとケのような関係です。ただし、これらは完全に切り離されているわけではなく、地続きであり、徐々に変身していくあわいを楽しんでいただければと思います。
ライブ音源を使わなかったのはいくつか理由がありますが、コピーバンドの宿命ともいうべき著作権や複製権との関係を前景化させ考えてみたかったからです。兼ねてよりオリジナルとコピーの問題に関心を寄せてきましたが、改めてこの概念を二項対立では語ることが難しい、と思い至りました。オリジナルを忠実にコピーし、その差異を小さくしたところで、この2つの主従関係は変わりません。この関係性を転覆させるためには、本来一番の勝負どころであるはずの「演奏の質」を差し引いたときに見えてくる景色、いわば「複製行為そのものの本質」に私の興味関心がありました。一見音楽ドキュメンタリーを装いながらも、楽曲をあえて使わないという制限を設けた上で、WISSのオリジナリティやユニークネスに迫る、という趣向です。この試みが成功しているかはわかりませんが、ご鑑賞いただく上での補助線としてここに書き記しておきたいと思います。
[謝辞]
個人(敬称略)
関章|福嶋隆之|宅間裕晃|広瀬伸治|波部吉宏
関明子|梶本典子|広瀬優子|波部栄理子
八木志菜|八木敦史|國府美紀|秋田裕子|山口智子|廣瀬孝人|原勗|宮下忠也|八巻真哉|松井昌平|桑原芳郎
西口勲|西口シゲ子|宇野大輝|西村春美|三木俊郎
西野正将|忠聡太|スチュアート・ムンロ
団体
HAIR SALON せき|進和自動車工業|株式会社 波部畳店|株式会社 田村屋|株式会社 UNIXIA|みんなのTERAKOYAおおいがわ|京都南丹Yagi-JAM実行委員会|南丹市八木市民センター|京都:Re-Search実行委員会|無人島プロダクション