ニューヨークの路上で雪の玉を売るアフリカ系の男は詐欺師かそれとも錬金術師か…。当時、まさかこれがのちに伝説となるアーティストのデイヴィッド・ハモンズ《Bliz-aard Ball Sale》（1983年）のパフォーマンスであることに気づいたものがどれだけいただろうか。冒頭の数分間、ブラックアウトした画面に不規則で不穏な金属音だけが鳴り響く《Phat Free》（1995年）は、ハモンズ唯一の映像作品と言われる。夜の街に鳴り響く音は警鐘のようでもあり、ジャズのフリー・セッションのリズムのようでもある。美術館やギャラリーといった美術における権威空間から飛び出し、身近な素材とシンプルなアイディアで行われたこれらハモンズのパフォーマンスは、特権的思想や制度に紐づけされた人種差別をはじめとする歴史的・社会的現実を批判し、そこからの自由を求めた。上映プログラムではハモンズのドキュメンタリー映画《The Melt Goes On Forever: The Art and Times of David Hammons》のジャパン・プレミアも行う。