-
SHARE
- X (Twitter)
STATEMENT
皿の裏側
映像メディアはもどかしい。何かを写して見せるという行為の裏には、他のものが切り取られ、排除されてしまうから。この宿命めいた構造は、私たちが地球にいる限り、月の裏側を肉眼で見ることができないという歯痒さと、どこか似ている気がする。
本作《ROAD MOVIE》は、ハリウッドから約6,940km離れたアイスランドの小さな村・スカーガストロントで撮影された。真冬の3ヶ月間滞在したこの村で唯一外食できた場所がガスリンスタンドに併設されている「Grill 66」というファストフード店であったことに、心底失望したのが制作のきっかけだった。店名の由来であるアメリカの国道66号線にちなみ、それぞれ地名が付けられているメニュー全25品を、東から西へ地理通りに見立てては一皿ずつ食べ、「Chicago(ベーコンチーズバーガー)」から 「Hollywood(ビーフステーキ・サンドイッチ)」を目指す移動しないロードムービーである。信頼関係を築いたレジデンス仲間、現地で知り合った青年たち、店のオーナーやスタッフなど、ひとつの目的のために結束してくれた。映画をつくるということは、一時的に擬似家族を形成するそれと近しく、現場での安心感と独特の高揚感を今でも覚えている。
いわゆる新大陸発見から西部開拓の延長であるかのように、月面到達レースを制したのも彼の国だった。フロンティア・スピリットといえば聞こえはいいが、開拓史の裏には土地を追いやられ、奪われてしまった人々がいることを忘れてはならない。アメリカではない場所で、非アメリカ人らと共にどのようにアメリカを表象するかーーアイスランドと同じく、北米プレートとユーラシアプレート上に位置し、今でも米軍基地がある島国に生まれた者としての、ささやかな挑戦のつもりだった。しかしながら、先述したように、本作もまた、映像メディアの宿命の例にもれず、ある一面しか切り取ることができなかった。今回、東京都写真美術館の素晴らしいコレクションと併せて拙作を展示できる機会を大変光栄に思うと同時に、大御所の作品と並んだときの私の胃袋は、至極萎縮してしまうのである。
会期:2024年2月2日(金)〜3月24日(日) 月曜休館〈ただし2/12日(月・振休)は開館し、2/13(火)休館〉
会場:東京都写真美術館3F展示室