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STATEMENT
《Ari, A letter from Seongbuk-dong》と《House to Home》 はジェントリフィケーション(Gentrification)の兆候が見られる城北洞(ソンブクトン|Seongbuk-dong)というまちを舞台に制作した作品で構成される。
朝鮮時代から文化芸術とゆかりが深く、文豪の旧宅や城壁跡などの近代文化財が残るまちには、その風情を愛する美術館やギャラリー、劇団、アーティスト、飲食店などが集い、近現代が絶妙な調和を成していた。近代文化と現代美術を楽しめるまちとして話題に なると、地価は上昇し、古い都市韓屋が店舗やマンションへと変わる速度が加速していった。まちのコミュニティはジェントリフィケーションの話題で持ちきりだった。
古いまちは常に「保存」と「更新」の問題に対面する。古いものと新しいものへの価値観は、それを保有するそれぞれの立場によって異なる。まちの変化はいずれ訪れる必然的なものだと捉え、2015年当時の絶妙なまちの調和を作品に残すために行ったプロジェクトが《Ari, A letter from Seongbuk-dong》である。写真の中の少女は近現代と未来を繋ぐ存在を意味する。惜しまれながらも変化するもの、そしてそれを受け入れより良い未来を築くために何が必要 であるか。伝統の保存と新しい文化の融合が作り出す未来について共に考察したい。
《House to Home》は、80年を超える都市韓屋を改修したOld Houseに、まちの人々や自身の長期に渡る韓国生活で家族のような関係を築いた人々を招き、「家族の拡張」について模索したプロジェクトである。Old Houseは、プロジェクトを理解し応援する人たちにより、「家族の範疇」について真剣に語り合う家となった。インスタレーションはプロジェクトを準備する過程から対話に至るまでを記録した、映像作品で構成される。自分の家族やまちについて振り返り、その隣には共に暮らす多様な考えがあることについて共に考察したい。
二つのプロジェクトは2015年に実行し、その過程を作品化したインスタレーションは2021年に完成した。その後、城北洞のギャ ラリー17717でこれらの作品を上映後に金仁淑と語り合う《対話 する個展(Art Talk with KIM Insook)》を開催した。以前作品に参加した人々や、まちの変化を見つめてきた住民、そして新たな参加者も加わり、まちの変化や未来、家族の拡張について語り合った。今回のインスタレーションは、2023年の対話を収めた新作と共に、恵比寿映像祭の会期に撮影する対話が加わる。時を経て作品も少しずつ変わっていく。
展覧会を通じて二つのプロジェクトをつなげる試みは、環境の変化を誰もが経験すること、しかし本質的な関係性は変化や距離と関係なく続いていくことを示唆している。その関係の始まりは互いの違いを認識し受容することから始まるのではないだろうか。多く の人々の声が一同に鳴り響く空間は、私たちが共に暮らす社会を表現している。その中からひとつひとつの声に耳を傾けることは容易ではないが、ちゃんと耳を傾けると多様な立場と考えに出逢うことができる。この空間を体験することが、あなたが暮らすまちについて考え、あなたと異なる他者を当事者として見つめるきっかけとなることを願っている。
会期:2024年2月2日(金)〜3月24日(日) 月曜休館〈ただし2/12(月・振休)は開館し、2/13(火)休館〉
会場:東京都写真美術館3F展示室