展覧会が、空間ではなくて、時間を占めるものだとしたら?
毎年スイスのバーゼルで行われる世界最大級の現代美術のアートフェア
「アートバーゼル」の開催にあわせて、市内のバーゼル劇場で
「Il Tempo del Postino(郵便夫の時間)」というイヴェントが
6月10日から12日まで行われ、話題になりました。
キュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストとアーティストの
フィリップ・パレーノ、アンリ・サラ、リクリット・ディラヴァーニャが中心となって企画し、
今をときめくアーティストたちが集い、劇場空間を使って行う「グループ・ショウ」。
2007年マンチェスターでの初演を経て、再アレンジされたものですが、
制作コストがかかり過ぎるため今後の巡回はないだろうという
ふれこみもあって、200スイスフラン(約18,000円)という料金にも関わらず
世界中から集ったアート関係者で客席は埋め尽くされました。
会場が大いに盛り上がったのは、ダグ・エイケンの
《ハンドルがあがりハンマーが振り下ろされる》という作品。
暗い客席の各所に歌い手たちが歩み出て、リズミカルに数字を
数え上げていくのですが、それが、オークションで金額を
つり上げるコールになぞらえられているのです。観客である
コレクターやギャラリストたちは、瞬時にそれを了解し、
次々に、「もっともっと」と値を吊り上げるジェスチャーが
自然にあちこちからあがります。次第にヒートアップする
歌声とともに、金額はどんどんあがり異様な熱気が空間を支配します。
その間にステージの照明が次第に明るくなり、
高楊する客席を照らし出し、そこにいるのは誰かを暴きだしていくという趣向。
楽しく盛り上がる一方で、市場原理の支配を免れ得ない
今日のアート状況の一端を、皮肉にも描き出している切ない作品でもありました。
ハプニングやイヴェント、パフォーマンス・アートの歴史に
照らし合わせれば、むしろクラシックな印象の演目も少なく
ありませんでしたが、アーティストたちが集って一緒に何かを
作るという試み自体は、もっと試みられてもいいようにも思います。
個人的には劇場にかかった赤いカーテンが生演奏にあわせて
舞い踊るティノ・セーガルの作品がとても美しく印象に残りました。
恵比寿映像祭のプレ・イヴェントとして行った「映像をめぐる7夜」も、
映像の時間性に着目し、映像に関わる7つのイヴェントを7晩に
わたりグループ展として構成するものでした。
映像に限らず、あらためて体験や時間性といったものに
アートの可能性を見出そうという動きがあるようですね。