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STATEMENT
韓国語で酒を意味する「술sool」は、水を意味する「수soo」と火を意味する「불bool」の合成によるものと言われている。酒の発酵によって炭酸ガスが生成され液面が泡立つ様子が、まるで酒が、液体のなかにある見えない火によって沸騰しているように見えたことが、その由来だという。
《FireinWater》は、朝鮮半島(おもに韓国)の稲作と酒造における日本統治の影響についてのリサーチをもとにした映像インスタレーションである。私は、これまで朝鮮総督府による朝鮮半島の産業への介入のリサーチを行いつつ、2023年より断続的に韓国内の農場や醸造所でのフィールドリサーチをしてきた。本作は、これらの調査をもとに、日本と韓国という、ふたつの互いによく似た文化がいかにして衝突し、一方が他方を同化、または他者化したのかについて、微生物や細菌、法制度や規範といった、目に見えない存在を通じて考えるものである。「水のなかの火」というタイトルには、そうした目に見えない存在のエージェンシーへの関心が反映されている。
韓国の酒造は、日本統治時代に、税収や効率的生産のために集約され、分離培養された麹や酵母を用いる日本式の酒造法が導入された。加えて、韓国在来種の稲もまた、総督府主導で管理され、代わりに日本で育種された稲の栽培が行われるようになった。農学者の寺尾博は「稲も亦大和民族なり」と述べているが、育種による選抜をうけた種苗や分離培養された菌といった「大和民族」は、法制度や食品流通網と手を取り合い、朝鮮半島の統治を担っていたのである。こうした影響は、日本統治以降にも続いていて、韓国では今もなお日本で育種されたか、それを引き継いだ稲が栽培され続けており、大量生産されたマッコリには日本式の麹が用いられている。米や酒において、日本統治の痕跡は、そこに含有される菌や遺伝情報といった非人間的で不可視の存在に刻み込まれており、酒の香気成分や米の食味を生み出し続けている。麹菌や稲の遺伝情報は、水の中の火のように、不可視のまま、今もなお韓国の酒造や稲作のなかで泡立っているのである。
ABOUT THE WORK
永田康祐《Fire in Water》2025年/日本語・英語字幕版/45分
上映スケジュール(PDF)