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STATEMENT
映画を撮り始めた時から、折に触れて母を撮ってきた。
私にとっては「母」であるために、母は最も身近な存在である。だが撮影をしていると、母の知らぬ面を見る。母は、母であると同時に、ひとりの未知なる人間であることを学んできた。
母は数年だけカラオケ喫茶のママをしていた。コロナ禍の影響で、もともと高齢者が多かったお客さんが戻らず、今年の春前、カラオケ喫茶を閉めた。私はコロナ禍に細々と営業していた頃に、母と常連さんたちに協力してもらって短編映画《カラオケ喫茶ボサ》をつくった。ゲーテ・インスティトゥート東京が60周年記念ということで依頼がきたコミッション作品であったので、「60年後に向けて残したいこと」という安易なインタビューを母や常連さんたちにしたのだが、皆さんの答えは日常の大事さと平和を願う、誠実で切実なものであった。
その短編を撮り始める少し前から、ロシアがウクライナに侵攻し、戦争がはじまっていた。
私の知らない母の人生について。10人兄妹の下から2番目。父親(私にとっては祖父)を5歳で亡くし、経済的に余裕がなかったため、高等学校を卒業するために、15歳で愛知県にある毛織工場に集団就職。働きながら高校を卒業する。その後、京都にいる兄のもとでアルバイトをしつつ、電話交換手の資格をとる。大阪の会社で電話交換手として就職。電話が自動化していく中でコンピューター室に移動になるが、故郷の鷹島(長崎県)の役場で電話交換手を探していると聞き、鷹島に戻る。休職するはずであった電話交換手の予定が変わり、交通課に勤めることになる。23歳で姉ができ、父と結婚した。
いま母の日常は、テレビで配信の中国ドラマを見ること、カラオケ教室に行って声を出すことらしい。いつかまたカラオケ喫茶ができたらなぁと、家の近くの空店舗について話をすることもある。私の知らない母の人生と、現在の母の日常、それらをとらえる小さな映画をつくりたい。
ABOUT THE WORK
小田香《母との記録「働く手」》2025年/24分41秒
上映スケジュール (PDF)
Works
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小田 香《母との記録「働く手」》
2025年/25分(予定)/HD/ステレオ/日本語・日本語英語字幕
出演:小田スエ子 協力:小田千草 制作:FieldRain