〈劇場〉シリーズは、アメリカの古い映画館や野外のドライブイン・シアターを撮影した写真作品である。杉本は、映画の上映開始から終了までカメラのシャッターを開放し続け、長時間露光することで、スクリーンに映し出される映画の光を一枚の写真に凝縮させている。その結果、スクリーンは真っ白に発光し、物語や映像は消え去り、劇場そのものの壮麗さが白黒の画面に際立って浮かび上がっている。 真っ白なスクリーンを前にした観客は、自らの記憶や想像力を頼りに情景を思い描くことになる。誰も見たことのない映画、そして誰も体験したことのない「写真の時間」を提示しながら、本シリーズは、観る者にイメージの本質を問いかけている。