1998年の「ポケモン事件」は、透過光によって緑と赤を明滅(フリッカー)させたことに原因があったといわれる。しかし、少なくとも映像作品のなかで明滅は、つねに表現手段として使われてきた。このことは『ポケモン』の場合も例外ではない。明滅は表現なのであって、この点を無視して明滅を語ることはできない。
商業映画の場合、基本的に明滅は視覚効果として使われている。サスペンスやホラー映画に用いられる明滅は、不安や恐怖を象徴していることが多い。明滅は、コマ単位で挿入される点でアニメーションの問題に関わっているし、明度の異なるショットをつないでいる点ではモンタージュ(編集)の問題でもある。
クーベルカの『アルヌルフ・ライナー』やコンラッドの『フリッカー』のように明滅だけで成立した実験映画も存在する。しかし、クーベルカとコンラッドでは、明滅に対する関心が異なっている。クーベルカの作品は、黒と白というもっとも単純なショットによる究極の編集表現であって、映画の構造的(分析的)なアプローチである。一方、コンラッドの関心は、潜在意識の覚醒にあって、明滅によるトリップが期待されている。
明滅の歴史は古く、そのあり方は多様であって、今日の映像作品にも受け継がれている。「フリッカー・ナイト」では、新旧の明滅作品、明滅に関連した作品を集めている。ささやかな試みだが、「表現としての明滅」を改めて考える機会となるだろう。(西村)[*パンフレットより]
フリッカー・ナイト 上映作品
*作家名、作品名(制作年/時間/媒体)、所蔵・配給先
ペーター・クーベルカ Pater KUBELKA
・コウノトリ Adebar (1957/1分30秒/16mm)
・シュヴェカター Schwechater (1958/1分/16mm)
・アルヌルフ・ライナー Arnulf Rainer (1960/6分30秒/16mm)
Sixpack film、ウィーン
トニー・コンラッド Tony CONRAD
・フリッカー The Flicker (1965/30分/16mm)
東京アメリカン・センター
ポール・シャリッツ Paul SHARITS
・ピース・マンダラ(1967/5分/16mm)
飯村隆彦氏
西村智弘 NISHIMURA Tomohiro
・フリッカー・パニック Flicker Panic(2000/13分/video)
作家蔵
末岡一郎 SUEOKA Ichiro
・ペーター・クーベルカ の「アルヌルフ・ライナー」のスコアによるリズとフランキーが登場するNTSCの明滅映画 A frick film in which there appear Liz and Franky in composed under the score of ARNULF RAINER by Peter Kubelka on NTSC (2000/6分30秒/video)
作家蔵
松本俊夫 MATSUMOTO Toshio
・色即是空 (1975/8分/16mm)
イメージフォーラム配給
牧野貴 MAKINO Takashi
・EVE(2002/3分/16mm)
作家蔵
宇川直宏 UKAWA Naohiro
・SCANNING OF MODULATIONS condition #1(1998・2001/5分30秒/dvd)
協力:有限会社アップリンク
・VISION△CREATION△NEWSUN(1999・2007/6分30秒/dvd)
(c)WARNER MUSIC JAPAN INC.
西村智弘/1963年生まれ。
1990年頃から映像作品を制作。1993年、美術出版社主催「芸術評論一般公募」入選。美術評論家、映像評論家としての執筆活動のほか、展覧会企画やさまざまな公募展の審査も手がける。