INDEX
管啓次郎

管啓次郎 / SUGA Keijiro
1958年生。評論家、翻訳家。比較詩学。明治大学大学院理工学研究科新領域創造専攻ディジタルコンテンツ系教授。著書=『コロンブスの犬』(弘文堂、1989)、『狼が連れだって走る月』(筑摩書房、1994)、『コヨーテ読書』(青土社、2003)、『ホノルル、ブラジル』(インスクリプト、2006)、『斜線の旅』(インスクリプト、2009)など。翻書=ジャン=フランソワ・リオタール『こどもたちに語るポストモダン』(筑摩書房、1998)、ウンベルト・マトゥラーナ+フランシスコ・バレーラ『知恵の樹』(筑摩書房、1997)、エドゥアール・グリッサン『〈関係〉の詩学』(インスクリプト、2000)など。
http://monpaysnatal.blogspot.com/

Q1.  あなたにとってもっとも忘れがたい映像はなんですか?
Q2.  忘れがたい映像について理由を教えて下さい
Q3.  あなたにとって「まだ見ぬ」映像とはなんですか?
A. 自分の記憶がしだいに信じられなくなってきた。20歳くらいまでの昔が本当の昔に思えてきたが、思えば20歳のころの自分に自分が生まれる10年前のことを思い出してごらんといっているような時間差なのだから、無理はない。それで肉眼で見た光景の記憶と映像の記憶が、今では妙な具合に入り混じっている。
映像の中では映画という枠組が好きで、それ以外の映像形式はなくても差し支えない。数位的合成映像はむしろ嫌いで、ひたすら実写がいい。それもエレメンタルな自然力の介入や動物の思いがけない動きが見られるものがいい。映画にも見たことのない傑作はいくらでもあって、ロマン・ポランスキーの『水の中のナイフ』(1962)を先日初めて見て、湖に雨がさあっと走るようにして降ってくる場面が大変にすばらしかった。動物はいろいろあるが、タルコフスキーの『ぼくの村は戦場だった』(1962)で、少年が幻想の中で死んだ妹と雨に濡れながらトラックの荷台に乗っている姿のその後で積荷のりんごが砂浜にばらまかれ、それをやってきた馬が一口ずつ齧り散らしてゆくシーンには唖然とし慄然とし陶然とする。何度見ても。
そして「未だ見ぬ映像」とは文字通り、まだ見ていない20世紀映画の数々の傑作群で、ぼくにはそれだけで十分。20年以上前、ハワイ大学で見た1960年ごろのフィリピン映画のすごい傑作があったが、題名も監督名も内容も覚えていないのが悲しい。

INDEX