第1夜 反復する壁映像をめぐる7夜

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リュミエールの『壁の崩壊』は純粋な奇跡だ。人類が初めて時間の矢を反転させたのだ。何より、その事象が「壁」によってもたらされたという事を考えたい。今も色褪せることがないこのフッテージが証明し続けるものは、立ち現れる「壁」と倒れる「壁」、つまり幾つもの振幅を含んだ「壁」の明滅こそが、映像だったということだ。ここでは石田による「海の壁」と名付けた3面スクリーンの壁にまつわる映像を導入に、足立智美のパフォーマンス作品「声の表面」の更なる反復へと繋げていくことになるだろう。(石田)

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映像を音とのアナロジーで考えてみよう。声にとって大事なのは声がマイクロフォンを通って増幅されること。いわば私的な状態に置かれた声が一度電気の流れとなることで公的なものへと変換される。一度公的なものとなった声は私的な声を侵犯し、揺り動かす。そのプロセスは不連続なものの反復であるが次第に主観性と客観性の境界として仮想の壁が立ち現れてくる。ならばカメラをマイクロフォンとして使うことは可能だろうか。プロジェクターがスピーカーであるとしたら、そこにあるスクリーンは何だろうか。映像においてスクリーン=壁は実体としてあらわれる。(足立)

足立智美

足立智美/1972年生まれ。
パフォーマー、コンポーザーとして国際的に活躍する一方、写真や映像作品も手がけている。2007年、ジョン・ケージ作《ユーロペラ 5》(日本初演/サントリー・ホール)の演出を担当。国内外各地で公演多数。

石田尚志

石田尚志/1972年生まれ。
10代から、画家として作品発表、ライヴ・ペインティングを試みる。1995年頃から映像制作を開始。有機的な線を主体とした描画をコマ撮りの手法で「動く絵」へと変貌させるドローイング・アニメーションにより自己の制作スタイルを確立。